R18 答えはひとつ

「……疲れた」
 斑鳩内にある自室に戻って早々、ルルーシュは心底疲れたとばかりに口を開く。後を着いてきていたジェレミアが扉に鍵をかけたのを確認してから、ルルーシュは今まで着用していたヘルメットを取り外した。口元を覆っていた布を首元へ引き下げ、一息つく。
 ヘルメットによって隠されていたルルーシュの素顔が露わになる度に、ジェレミアはいつもたとえようのない感情に支配された。
 ジェレミアは、ルルーシュの瞳が好きだった。ゼロでいる際にはヘルメットが瞳を覆い隠してしまうため、常々勿体無いとすら思っていた。だが、それと同時にその瞳を見られる数少ない人間の中に自身がいることが誇らしくもあった。
「ジェレミア」
「Yes, Your Majesty」
 薄い紫の瞳がジェレミアを見つめ、その名を呼ぶ。何度繰り返したか分からぬ違えることのない返答をし、ジェレミアはルルーシュの肩からマントを外すと、手渡されたヘルメットを受け取った。それらをクローゼットに片付けていると、背中に軽く触れるものがあった。
「殿下?」
「ん……」
 もたれかかるようにジェレミアの背に額を押し付けたルルーシュは、小さく反応を返す。
「失礼いたします」
 首だけをルルーシュに向けていたジェレミアは体ごと向き直ると一言声をかけて、支えがなければ今にもよろけてしまいそうなルルーシュをそっと持ち上げた。軽々と持ち上げられてしまうその重みに、ジェレミアの眉間に皺がよる。
 抱えたルルーシュをベッドへと横たえて顔を伺うと、疲労の色が濃いようだった。
「酷くお疲れのご様子、どうかお休みくださいルルーシュ様」
 そう告げて、ルルーシュの目元にかかる髪を指先で小さく払うと、ぎゅうとルルーシュの手のひらにその指が掴まれる。
「申し訳ありません! 差し出がましい真似をいたしました」
 不興を買ってしまったと勘違いしたジェレミアが手を引こうとすると、縋るようにルルーシュの指先が伸ばされてジェレミアの指を再度捕らえた。
「……嫌なわけじゃない、謝るな」
「はっ、申し訳、」
「謝るな」
「……Yes, Your Majesty」
 ぐっ、と謝罪の言葉を飲み込んでジェレミアが応じると、ルルーシュはふっと唇の端を持ち上げて微笑んだ。その微笑がやはり疲れのせいかどこか弱々しく見え、ジェレミアは胸が痛むのを感じた。指先は未だルルーシュに掴まれたままで、それもどうしたら良いものかと戸惑ってしまう。
 ルルーシュはじっとそんなジェレミアの様子を見つめていたが、何を思ったのかジェレミアの手を口元に寄せた。そして、手袋ごと緩く指先を食むとジェレミアの指を噛まないように気をつけつつ手袋へ噛み付き、するりと脱がせていく。
「ルルーシュ様!?」
 指先の感触にジェレミアが驚いている間に、自身の右手からはすっかり手袋が脱がされていた。
 ルルーシュは脱がせた手袋を床に落とすと、ジェレミアの露わになった指先をぺろりと舐める。その後、見せ付けるようにねっとりと指を舐めあげたかと思うと、咥内にその指を招き入れる。ちゅう、と強めに吸い付けばジェレミアの喉がごくりと鳴った。
「……ジェレミア」
「ですが、お体が……」
「ジェレミア」
 主に名を呼ばれた家臣は、それ以上拒むことなど出来なかった。
 ジェレミアがベッドに体重を預けると、ぎしりと軋む音が響く。横たわるルルーシュの顔の横へと手を置き、覆い被さるようにするも、ジェレミアはルルーシュの体が心配でならなかった。
 蠱惑的なルルーシュの瞳と気遣わしげなジェレミアの視線が交わる。ルルーシュの唇は先ほどの行為で薄っすらと濡れていた。扇情的なその姿に、ジェレミアの下半身は見事に反応してしまいそれがなんとも情けなかった。
「ジェレミア、返事は?」
「Yes, Your……」
 最後まで告げる前に、ルルーシュ自らがジェレミアの首に腕を回して唇を押し当てた。主の積極的な行動に押されて、ジェレミアもルルーシュの頭の下へ手を差し入れると、触れ合う唇を緩く食んだ。まずは、と柔らかな唇の感触をジェレミアが堪能していると、ルルーシュの舌がジェレミアの唇を舐めて、その先を急かす。
 主君を待たせるわけにはいかないので、ジェレミアは誘われるままにルルーシュの舌に自身の舌を絡めて、更に深く口付けていく。
「ん、……ふっ」
 舌と舌を擦るように絡めながら、咥内を蹂躙していけば、ルルーシュは小さく声を漏らした。何度見てもその姿は初々しく、ジェレミアはくらりと眩暈がしそうだった。
 零れた唾液がルルーシュの頬や顎を伝っていくので、ジェレミアはそれを舌で追いかけていく。そのまま首筋に顔を埋めて吸い付けば、ルルーシュの体がぴくりと反応する。
「んっ……」
 その反応を嬉しく思いながら、ジェレミアはルルーシュの服に手をかけた。徐々に素肌が現れていく度に、ジェレミアは唇を押し当てていく。愛おしむようにルルーシュへと触れていくと、頭上から声がかかった。
「じぇ、れみあ……っ」
 もどかしげな声音に含まれた意味に気づいたものの、ジェレミアはそ知らぬ振りをした。たまにはこのような趣向もいいだろう。
 肌蹴られた胸元に唇を寄せて、色づく先端を舌で舐める。押しつぶすように舌を使い、次いできつく吸い上げる。
「んぅ、あ、っ……!」
 ルルーシュの漏らす声に、ジェレミアの聴覚が刺激された。今は、五感全てがただルルーシュという存在を感じ取る機能と成り果てていた。
 片方は舌で、もう片方は指先で執拗にこねくり回しているとぷくりとそれは勃ちあがっていく。何度も何度もそこだけを弄っていると、ルルーシュがジェレミアの髪を緩く掴んだ。
「もう、いいだろ……っ」
 まだ直に触れられてはいなかったというのにルルーシュ自身も既に勃っているようで、濡れた紫の瞳に懇願されたジェレミアは薄く笑って返した。
「Yes, Your Majesty」
 下着ごと服をずり下ろして現れたルルーシュのものに、ジェレミアは指を絡めてゆるゆると刺激を与えていく。ルルーシュの顔は羞恥と快楽に頬が染まっていて、それがあまりにも可愛らしかった。愛しさばかりが募る主君へと、ジェレミアはそっと口付けた。
 最初は軽く触れ、一度唇を離すと赤く誘うような舌に自身のものを絡める。ちゅぷ、と漏れる水音が淫靡で更に情欲を煽った。
 口付けている間も、手は休まずルルーシュの快楽を追い上げていく。強く擦りあげた後勃ち上がったその先端に爪を立てると、ひあっ、とルルーシュは声を上げて精を吐き出した。それを手のひらで受け止めたジェレミアは、ルルーシュの足を開かせて未だ触れていなかった後孔へ指を這わす。
「……っ、」
 体を強張らせるルルーシュをなだめるように目元へ口付けると、ジェレミアは濡れた指の腹で後孔の周りを撫で上げる。まずは一本の指をゆっくりと埋めていき、ぐるりと内壁に触れていく。
 はぁ、と吐息を漏らして薄っすらと欲にまみれた瞳で見つめてくる主君の姿に、ジェレミアは一刻も早く温かなその中へと自身を埋めたくなったが、どうにかその衝動をやり過ごす。まずはルルーシュの痛みを和らげるためにも解さなければならない。
 徐々に指の本数を増やしていけば、貪欲にもルルーシュは銜え込んでいく。
「ふあっ……!」
 ある部分を指が掠めるとルルーシュの体が反応する。更に強く指で押して、ぐちぐちと内部を蹂躙するとルルーシュの足先がシーツをもがく。
「そんなに良いですか?」
 耳元で戯れに囁けば、妖しげに輝く瞳がジェレミアを射抜いた。
「う、るさいっ……!」
「申し訳ありません」
 口では謝るものの、ジェレミアは笑みを抑えることが出来なかった。
 ずるりと後孔から指を引き抜くと、自身の前をくつろげてルルーシュによって煽られた己をひたりと押し当てる。その感触に、ルルーシュが息を呑んだのが分かった。
「……っ、ルルーシュ様」
 ルルーシュが息を吐いたと同時に、ジェレミアはぐぐっと内壁を擦りあげながら侵入した。
「やっ、ああっ……!」
 ようやく入ることの出来たルルーシュの中は、思い描くそれよりも更に熱く、ジェレミアをぎゅうぎゅうと締め付けて離さない。
「くっ……」
 直に与えられる快感に、ジェレミアも耐え切れず声を漏らす。
 ゆっくりとではあるものの徐々に腰を動かしていけば、ルルーシュの口からは絶えず喘ぐ声が零れる。
「ひあっ、あ、あ……っ」
 だらしなく口を開けて快楽に溺れるルルーシュの姿は、常の姿からは想像し難い。だが、ジェレミアにとってはそのどちらもがルルーシュであり愛おしい存在には違いなかった。
 胸を締め付けるこの感情は忠誠という枠を超えようとしている。それともすでに、超えてしまっている?
「やっ……、そこっ、ああっ」
 感傷を振り切るように内部を抉れば一際大きくルルーシュが跳ねる。弱い部分を重点的に責めると、びくびくとルルーシュの体が反応した。段々と激しさを増す抽挿にルルーシュの口からは嬌声が上がり続けた。
 そのまま一気に最奥を突き上げられたルルーシュは、声を上げて再度精液を吐き出して果てる。収縮する内部を感じながらも、ジェレミアはルルーシュを揺さぶって遅れて中に己のものを全て吐き出した。
 がくがくとされるがままに揺さぶられていたルルーシュは、ジェレミアが体内から引き抜かれたのを感じた後、薄っすらと瞳を開けた。そして、のろのろと腕を伸ばしてジェレミアの頭を引き寄せる。
「じぇれ、みあ」
「……ルルーシュ様?」
 ぎゅうと抱きしめられるのはとても嬉しかったが、あまり見られないルルーシュの行動にジェレミアは不思議がる。髪を撫でられたかと思うと、するりとルルーシュの指先がジェレミアの目元に触れた。生身の瞳と、仮面で覆われた機械の瞳。
 それをどこか悲しげに認めたルルーシュは、ぽつりとジェレミアに問いかける。
「……お前は、ずっと俺の傍にいてくれるか?」
 ジェレミアは大きく目を見開くと、ルルーシュの言葉に込められた様々な思いや感情に一瞬瞳を揺らした。
 だが、それでも、答えはひとつだった。
「Yes, Your Majesty」
 迷わず、まっすぐと告げられたジェレミアの言葉に、ルルーシュは「そうか、」と呟いて微笑んだ。
 レンズによって隠された左目の赤い紋章が、涙に濡れた。
2008/09/14
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